言葉でできた夢をみた。

海の底からわたしをみつめる眼は、きっといつか沈めてしまったわたし自身の眼なのだろう。(書きながら、勉強中。)

読書日記

ままならないことを、ままならないままに―トーベ・ヤンソン『ムーミンパパ海へ行く』

「だけど、それじゃ海は生きものにちがいないな。海は考えることができる。したいほうだいのことをする……。あいつを理解することは不可能だ……。もし森が海をおそれるのなら、それは海が生きているということになる。そうじゃないか」 「じゃあ、わしは理解す…

天井からながめるべきだよ―トーベ・ヤンソン『ムーミン谷の夏まつり』

「わしは、よく思うんだがね。たまには、じぶんの家を、下のゆかからじゃなく、天井からながめるべきだよ」 『ムーミン谷の夏まつり』より引用、ムーミンパパの台詞 今回は『ムーミン谷の夏まつり』についての感想を書いていく。この作品は、物語が面白いの…

魔法をめぐる物語―トーベ・ヤンソン『たのしいムーミン一家』

今回はムーミンシリーズの原作小説のひとつ、『たのしいムーミン一家』の感想を書いていこうと思う。過去記事にも書いたが、私はアプリゲームからムーミンの世界観を知り、原作が気になって読み始めたという経緯がある。そういう視点で読んでみると、この『…

幽玄の中へ認識を押し広げるという言葉の可能性―泉鏡花「高野聖」を読んで

(まあ、女がこんなお転婆をいたしまして、川へ落こちたらどうしましょう、川下へ流れ出でましたら、村里の者が何といって見ましょうね。) (白桃の花だと思います。)とふと心付いて何の気もなしにいうと、顔が合うた。 すると、さも嬉しそうに莞爾(にっ…

何故かムーミンシリーズの小説を読み始めたこと

最近、職場の人に誘われて、今更という感じではあったのだけれどムーミンのアプリゲームを始めた。こういうものに、どうしてもお金をかけたくないと思ってしまうので課金はせずにのんびり時間にまかせてプレイしているのだけど、結構面白い。キャラクターや…

化かされて、愉快いな―泉鏡花「化鳥」

化ける、というのはどういうことなのだろうとふと考えた。辞書的な意味を引いておくと「本来の姿・形を変えて別のものになる」ということ。私達は「化ける」ことよりも、たぶん「化かされる」ことのほうが身近に感じられるのではないだろうか? 自分が化けて…

日本語の時空間をめぐる旅―池澤夏樹=個人編集日本文学全集30『日本語のために』

かつてこの国では、文学全集という形式が流行った。そしてやがて廃れた。今、かつて出版された文学全集たちは、多くの町の図書館にある閉架書庫で埃をかぶって眠っている。時々その中の1冊、2冊がマニアックな読書家に発見されて借りられていくのだろう。1冊…

モノと文化、人と歴史と認識と―関根達人『モノから見たアイヌ文化史』

もう1年以上前になるが、私は以前こんな記事を書いた。 交流、混淆、変容 ―『アイヌ学入門』という本から再確認した文化観 - Danse Macabre! 生まれも育ちも北海道なのに、北海道の歴史が、はっきり言ってよくわからない。 小中高時代で習ったことによれば、…

僕たちが立つ場所―いしいしんじ『海と山のピアノ』

今回はいしいしんじ『海と山のピアノ』(新潮社、2016年)という本について書いていこうと思う。発売された時、表紙が可愛いということで話題になっていたのは記憶に新しい。書店へ行ったところ、新刊本コーナーにあったこの本の可愛さには抗えず……買ってし…

人生が凪ぐ時―ル・クレジオ『偶然――帆船アザールの冒険 アンゴリ・マーラ』

今回紹介する書籍にはふたつの小説が収録されている。「偶然――帆船アザールの冒険」と中篇小説の「アンゴリ・マーラ」だ。当ブログでは今回「偶然――帆船アザールの冒険」についての感想を書いていきたいと思う。 ル・クレジオ、菅野昭正 訳『偶然――帆船アザ…

束の間の越境―ル・クレジオ『海を見たことがなかった少年』

今回は前回に引き続きル・クレジオ『海を見たことがなかった少年』より「童児神の山」と「水ぐるま」という短篇作品を2本紹介したいと思う。 ル・クレジオ 著 豊崎光一、佐藤領時 訳、『海を見たことがなかった少年』(集英社文庫、1995) 海を見たことがな…

夢想としてまるで絵のような風景をみる―ル・クレジオ『海を見たことがなかった少年』

いつの頃からか、毎年に夏になると必ず読み返す本がある。 ル・クレジオ(豊崎光一、佐藤領時 訳)『海を見たことがなかった少年 モンドほか子供たちの物語』(集英社文庫、1995年)という本だ。 海を見たことがなかった少年―モンドほか子供たちの物語 (集英…

素材と表現の立場、自覚的に鑑賞すること―伊福部昭『音楽入門』について

伊福部昭、という人の名前を聞いてもそれが何者なのかいまいちピンとこない、という人であっても映画「ゴジラ」の音楽を作曲した人だよ、と言ってあげるとわかってくれたりする。それが良いことなのか、悪いことなのかはわからないが、ひとまず私はよく伊福…

言葉を使ってるから―仙田学「愛と愛と愛」感想その2

「言葉」というものは、人と人の間において障害にもなるし、架け橋にもなり得る。 人と人の間にあるかもしれない「空虚」を埋めることさえできるかもしれないし、人が隠そうと決めた心の弱い部分を暴力的にえぐり出し、攪乱してしまうかもしれない。 mihirom…

すっきりした文で、コミカルで、怖い―村田沙耶香「コンビニ人間」

今回は、村田沙耶香「コンビニ人間」について。この作品は第155回芥川賞受賞作ということで色々な人が手に取り、Twitterなどで感想を述べている。色々な人がひとつの作品について様々な感想を語る、今のこの状況、私はとても楽しい。 コンビニ人間 作者: 村…

騎士も城も恋人も、信じることが大事なのだ―セルバンテス『ドン・キホーテ』

今回の更新で『ドン・キホーテ』前篇に関する一連の更新は終わりにしようと思う。第一回目の更新で触れていた通り、今回は【絶対に本物の騎士になれないドン・キホーテ】、【重要な舞台装置、「魔法にかかっている宿屋」について】の二本立てで書いていく。…

物語の「中断」への積極的意味づけ―セルバンテス『ドン・キホーテ』

前回に引き続き、今回もセルバンテスの『ドン・キホーテ』前篇(牛島信明 訳、岩波文庫、2001)について書いていこう。 前回はなんとなく全体像的な話を書いたので、今回は【語りの面白さ】にフォーカスしてみたい。前回記事はこちら↓↓ mihiromer.hatenablog…

読書とは生活の中断である―セルバンテス『ドン・キホーテ』

おひまな読者よ。 さてさてお待たせしました!(え、なになに? 待ってないって言った? そんなの聞えなぁい!)今回の記事からしばらくの間、セルバンテスの『ドン・キホーテ』について書いていこうと思う。今回私が読んだものは岩波文庫版のこちら↓↓ セル…

寸断されたコミュニケーション―松波太郎「ホモサピエンスの瞬間」

吃音というものが実際どういうものであるのか、厳密な定義はよくわからないが、私にはどもっていた時期がある。どういうわけだか「どもる」のは常に職場だけであり、そこでの日常生活に著しく支障をきたしていたが、休日に仕事とは全く別の場所、別の人と話…

海から受取ったものを海へ返す―アン・モロウ・リンドバーグ『海からの贈物』

美しく生きるのは難しい。世界がごちゃごちゃになっている、というのが最近のニュースやSNSを見ていて思う私の雑感だったりする。そう世界がごちゃごちゃ。これは自分が大人になったから引き受けなければならなくなった社会的な責任なのか、それともやっぱり…

収斂しないイメージ、無限定なメキシコ―カルロス・フエンテス『澄みわたる大地』

カルロス・フエンテス(1928-2012)という小説家の作品を今回初めて読んだ。今回はこの本についての感想。 カルロス・フエンテス、寺尾隆吉 訳『澄みわたる大地』(現代企画室、2012年) 澄みわたる大地 作者: カルロスフエンテス,Carlos Fuentes,寺尾隆吉 …

誰かの空虚を埋める言葉―仙田学「愛と愛と愛」

仙田学が変態はじめしたの。TLのばたばたしてるときに、いつもはあたしが買わない文芸誌でうろうろしてるから、いいぞもっとやれって検索かけたら……。 (@MihiroMer twitterより抜粋) 今回は仙田学「愛と愛と愛」(160枚、文藝2016年秋号掲載)について書い…

死者のおしゃべり小説―フアン・ルルフォ『ペドロ・パラモ』

道は上りになったり下りになったりしていた。「行くか来るかで、上りになったり下りになったりするんだよ。行く人には上り坂、来る人には下り坂」 「下の方に見えるあの町はなんていうんだい?」 「コマラだよ、旦那」 (前掲書、8頁より引用) ラテンアメリ…

見る/見られる、眼差の戦争―ル・クレジオ『戦争』

先日、このブログを始めてから1年経ちました、というメールが届いた。どうやら1年続いたらしい当ブログ。1周年記念を謳った特別な更新は何もしないけれど、今後とも当ブログをよろしくお願いします(いつも見に来てくれる方々、本当にありがとうございます!…

時間の絶滅―ル・クレジオ『調書』

僕の舌には、嘔吐の味のようなものがあった。暑くて、あらゆるものがじっとりと汗をかいていた。自分でも覚えているが、僕は学生ノートを一ページ破り、その真ん中に書いた。 蟻どもにおける ある破局の調書 (ル・クレジオ 著、豊崎光一 訳『調書』(新潮社…

低空飛行なカフカ―『絶望名人カフカの人生論』を読んで

フランツ・カフカ、頭木弘樹『絶望名人カフカの人生論』(飛鳥新社、2011年) 絶望名人カフカの人生論 作者: フランツ・カフカ,頭木弘樹 出版社/メーカー: 飛鳥新社 発売日: 2011/10/22 メディア: 単行本 購入: 3人 クリック: 48回 この商品を含むブログ (26…

読書の果ての「私」の分離、遊離―村上春樹『ねむり』

さて予告通り前回の続き。 実際、この本はひとつの物体として美しいのでおすすめである。 ねむり 作者: 村上春樹,カット・メンシック 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2010/11/30 メディア: ハードカバー 購入: 2人 クリック: 24回 この商品を含むブログ (3…

それは夢のようでない夢―村上春樹『ねむり』

今回から2回に分けてこの本について。 村上春樹、カット・メンシック(イラストレーション)『ねむり』(新潮社 2010年) ねむり 作者: 村上春樹,カット・メンシック 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2010/11/30 メディア: ハードカバー 購入: 2人 クリック…

「物語」は面白い―バルガス=リョサ『密林の語り部』

今も昔も、人間は絶えずフィクションを生み出し続け、語り続けている。物語る、ということに終わりはなさそうだ。今回ここで紹介する小説、バルガス=リョサ『密林の語り部』はズバリ、「物語」というものについて掘り下げた作品だ。 バルガス=リョサ(西村…

人と蚕が紡いだ歴史、産業、文化―畑中章宏『蚕―絹糸を吐く虫と日本人』

今回ご紹介する本はこちら↓↓ 畑中章宏『蚕―絹糸を吐く虫と日本人』(晶文社、2015年) 蚕: 絹糸を吐く虫と日本人 作者: 畑中章宏 出版社/メーカー: 晶文社 発売日: 2015/12/11 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (3件) を見る アカデミックなところでは…