言葉でできた夢をみた。

海の底からわたしをみつめる眼は、きっといつか沈めてしまったわたし自身の眼なのだろう。(書きながら、勉強中。)

2020-01-01から1年間の記事一覧

「かれ」の視線―松浦寿輝『人外』

はじめ「境界」の物語かと思った。けれど読み進めていくうちにこれはもっと広い、生きることの物語ではないかと思うようになっていった。 2020年もいろいろな小説を、その世界にもぐるみたいに読んで通ってきたけれど、今回紹介するこの本ほど、「自分が存在…

ひと月とフェルメールとプルースト

コロナ禍に見舞われた2020年前半は、カミュの『ペスト』やデフォーの『ペストの記録』を読んでいた。それが3月くらいまでの出来事、当分の間、本屋にも図書館にも行けなくなりそうな不安からとにかく長い物を、時間をかけて読もうと思ってマルセル・プルース…

空、だからこそー八木詠美「空芯手帳」

空の描写がところどころに印象的で、それは時間や季節のうつろいを描き、その空を読みながら私は一人の読者として「空人くん」を育んでしまったような(育む、は言い過ぎかもしれない、せいぜい成長を見守る?)不思議な読書体験をした。バレたらどうするのさ…

これが私の「本屋」活動――内沼晋太郎『これからの本屋読本』

いろいろな本の買い方があると思う。 その中で、私が最も贅沢だと思う本の買い方はなんとなく書店へ行って、なんとなく手に取った本になんだか魅かれて、そのままレジへ持っていくという買い方だ。時々、こういう本の買い方をしたくなってしまう。衝動買いで…

沈黙

新型コロナウィルスに隠喩を与えるならば「沈黙」こそがふさわしい。 と、そんなことを考えていた二月の終わりころから三月の中ごろ。 はじめは隣の国の一都市で起きていた出来事、まさに対岸の火事。それが気づけば自分のすぐそばまで迫っていて、いや、そ…

こーりゃ、どうしてってぐらい生い茂っとるたい―古川真人『背高泡立草』

あのひとたちがあんまりよく喋るもんだから……と、草茫々の納屋の前に立って溜息のひとつでもついてみることを想像する。それで、この溜息の意味はなんだろう?うんざりなのか、次々と移り変わる話題の広さや語られる過去の深さへの期待なのか、それとも埋も…

〈時〉を取り戻す力―栗林佐知『仙童たち 天狗さらいとその予後について』

「天狗とは、いったい何なのか」 このたったひとつの問いに真摯に向かいつづけた薄木市立郷土資料館学芸員(一年契約)のクジラガワ・カンナさん。この人の研究をなんてすばらしいんだと思った。研究題目は「多摩西南地域の天狗道祖神――庶民信仰をめぐる一考…

重要な曖昧さ――滝口悠生『やがて忘れる過程の途中(アイオワ日記)』

あとがきまで読み終えたあとで本の表紙に戻り、そこに描かれた人物の膝の上で握りしめられた手をみる。みてしまう、どうしても気になってしまう。その意味が、この本を実際に手にとって最後まで読んだひとにはきっとわかると思う。 今回は、滝口悠生『やがて…

――引用、乗代雄介「最高の任務」

過去の回想のようであって、単なる過去の回想を超えた、そこに「書く」という営みへの信頼と力強い肯定を感じた作品――乗代雄介「最高の任務」の感想を書きたいと思う。日記という体裁をとった作品で、実は私も小六の頃から日記を書きつづけているせいか、そ…