言葉でできた夢をみた。

海の底からわたしをみつめる眼は、きっといつか沈めてしまったわたし自身の眼なのだろう。(書きながら、勉強中。)

2023-01-01から1年間の記事一覧

気配と手触り―小山田浩子『パイプの中のかえる』『かえるはかえる パイプの中のかえる2』

久しぶりに小山田浩子さんの短篇小説「広い庭」(『庭』新潮社、2018年所収)を読み返した。やっぱりいいな~この作品好きだな~と思った。文芸誌に掲載されたときに初めて読んで、その時もなんだかひとりで盛り上がって「これはちょっとすごいんでないか」…

B面に行きたかった!―『LOCKET』06 SKI ISSUE 地図の銀白部

子供の頃、ウォークマンはカセットだった。今から思えば、よくあんなに大きなものを、しかもたいしてたくさん音楽が録音できるわけでもない装置を持ち歩いていたなぁと思うのだけど、あの頃はあの装置だけが私を「音楽」の世界に連れ出してくれたのだった。…

道路の発見―サン=テグジュペリ『人間の土地』

最近、自分のすぐ近くで理不尽な死に遭遇してしまって、随分考え込んでしまった。生きていて、こうしてブログに何を書こうかと悩んでいられるということ、この絶妙なバランスの上に日常が成り立っているという感じ。 ウクライナや中東の戦争に関するニュース…

蝉の声に触る―平沢逸「点滅するものの革命」

「普通」小説は存在しているものを書くか、書くことで何かを存在させようとするものだと思う。見えないもの、聞こえないもの、触れないもの、そういうものの感触を言葉にすることで存在させることができるのが小説だ。しかし、この作品はそもそも存在しない…

眠り舟―古川真人「港たち」

この「にぎやかな一家」に久しぶりに会えた。なんだかとても嬉しかった。彼らは本の登場人物たちなのだから、うちにあるこの著者の本を開けばいつでも会えるのだろうけれど、何故だか新作が出ると彼らの「近況」の便りを受け取ったような気持ちになる。そう…

傷口にあてがう―ハン・ガン『すべての、白いものたちの』

「白いものについて書こうと決めた」と、始まる本書に最初に表れる白いもののリストはひとりの人間が生まれてから死ぬまでの時間に含まれ得るものだと思った。「おくるみ、うぶぎ」から「壽衣(註:埋葬の際に着せる衣裳)」までの時間。けれど読み進めてい…

水の中、雲の上の空という場所で―三品輝起『雑貨の終わり』

私の机の上は雑貨でいっぱいだ。赤い手回し式の鉛筆削り、小さなサファイアのついた片方しかないピアス、オロナイン軟膏、腕時計、メモ用紙、木彫りの熊やひょうたんおやじ(シゲチャンランドにて)のミニチュア、単三電池、MOZの赤いぬいぐるみ、いくらか前…

透明な孤独の輪郭線―絲山秋子『海の仙人 雉始雊』

水晶浜ってどんなところ? とAIに訊いたら、福井県美浜町にある海水浴場で、その名前の由来は「白く透き通っていて光に透けているような砂が水晶のように見えることから付いた」のだと応えた。AIがいうことだから嘘か本当かはわからない、と思いかけて、いや…

おれたちの再審はすなわちおまえの審判だ!―大江健三郎『万延元年のフットボール』

死ぬことは、とても大変なことなのだと思う。そのくせ、自分が死ぬ時には魂がぽろっと崖から転げ落ちるようにあっけなく死ぬんじゃないかと思っている。楽をしたい。それはたぶん自分の中にある本当の地獄に向き合うのが恐ろしくて耐え難いからだ。死に至る…

生命観を描ける言葉―水沢なお『うみみたい』

ふえるって美しい、のだろうか? どうして生き物はふえたいのだろう? 太古の昔の海の中からずっとそうだったから? その「ずっと」を根拠に、私たちはふえつづけるんだろうか? 生命観、ということについて考えもした。ふえる(生殖する)ことへの意思、う…

遅れてくる痛み―『ウクライナ戦争日記』

この本を読んでいた数日間、真夜中の中途覚醒や酷い動悸、過呼吸の発作などに襲われていて、「あれ最近忙しかったっけ? 疲れてるのかな……」と、はじめはどうして調子が悪くなったのかわからなかったのだけれど、しだいにこの本の内容に相当打ちのめされてい…

何ぞかくとゞまるや―大江健三郎『懐かしい年への手紙』

大切な本の一節を、くりかえし読み返し続けている時に感じられる「永遠」というものが確かにある、と感じられる。今回紹介する『懐かしい年への手紙』という作品の中に、私はそういう「永遠」を見る思いがした。 ギー兄さんがダンテの『神曲』のある部分を説…