言葉でできた夢をみた。

海の底からわたしをみつめる眼は、きっといつか沈めてしまったわたし自身の眼なのだろう。(書きながら、勉強中。)

2015-01-01から1年間の記事一覧

想像力で戦う―村上春樹「かえるくん、東京を救う」

「ジョセフ・コンラッドが書いているように、真の恐怖とは人間が自らの想像力に対して抱く恐怖のことです。」 (「かえるくん、東京を救う」『はじめての文学 村上春樹』(文藝春秋 2006)より引用) 今年最後に紹介する小説は、村上春樹の短篇小説「かえる…

主観の渦の中、永遠のよそ者K―カフカ『城』を読んで

フランツ・カフカの短篇をいくつか読んだ後は、是非とも長篇も! ということで長い間積み本になっていた「城」の征服に乗り出してみましたが……。遭難しましたッ!ひとまず読み終えることはできたし、数年前に積んだ時よりは面白さがわかったような気がします…

転移―『カフカ短篇集』より「火夫」「橋」「人魚の沈黙」

今回も前回までに引き続きカフカ短篇集についての更新です。 池内紀編訳『カフカ短篇集』(岩波文庫 1987)から「火夫」「橋」「人魚の沈黙」について書いていきます。 カフカ短篇集 (岩波文庫) 作者: カフカ,池内紀 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 1987…

断言できないもの―『カフカ短篇集』より「流刑地にて」「父の気がかり」「狩人グラフス」

一冊の本を読むと、しばらくその本についてのブログ更新が続く……というパターンがすっかり安定してきました。今回は前回の続き、岩波文庫の『カフカ短篇集』から「流刑地にて」「父の気がかり」「狩人グラフス」について書いていきたいと思います。 カフカ短…

他者との関係性、距離―仙田学『盗まれた遺書』

今回は仙田学『盗まれた遺書』より短篇小説「肉の恋」「乳に渇く」「ストリチア」について書いていきたいと思います。 盗まれた遺書 作者: 仙田学 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2014/03/18 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (1件) を見る 『…

盗み続ける書評―仙田学「盗まれた遺書」

我々は、日々、生きる中で、盗み続けているのかもしれない。 「盗み続ける書評」という言葉をふと思いついた時、この作品の怖さにぶち当たったような気分になった。 「遺書を読みこめば読みこむほど、自分のもとに届いたことが当然のように思えてならなくな…

遭遇してしまったので。―仙田学『盗まれた遺書』

www.youtube.com 思うに「ある作家に遭遇する」ということは、その作家の書籍や作品を見かけるということとは別のことだ。見かけるだけなら、年間何百人もの作家の存在があるが、それは遭遇ではない。「読んだ」というのも遭遇ではない気がする。ある作家に…

小説は自由だ―コルタサル『悪魔の涎・追い求める男』

今回で一連の(?)コルタサル更新は終わりにしたいと思います。1年に1作は面白いラテンアメリカ文学に出会えている気がするここ数年……幸せなことです。 さて今回は、『コルタサル短篇集 悪魔の涎・追い求める男 他八篇』(木村榮一訳 岩波文庫 1992)より、…

未知の、既知の感慨―滝口悠生「死んでいない者」

今回は前回までのコルタサル更新を一旦停止して、滝口悠生「死んでいない者」(文學界2015年12月号掲載)の感想を書きます。 文學界 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2015/11/07 メディア: 雑誌 この商品を含むブログを見る 「押し寄せてきては引き、また…

倒錯/断絶―『コルタサル短篇集 悪魔の男・追い求める男』

コルタサルの短篇小説を読んで、生まれて初めて「短篇小説って短い小説っていう意味じゃないんだ!!」と思いました(嘘のようなほんとの話)。『対岸』『八面体』などコルタサル短篇集の付録にコルタサルの短篇諸説観が掲載されているのですが、怖いものす…

日常という秩序の崩壊―コルタサル『悪魔の涎・追い求める男 他八篇』

お久しぶりの更新になってしまいました。長編小説を書いている間はだいたいこのくらいの亀更新になります。いつも見に来てくださる方、ありがとうございます。のんびりですが、これからも読書感想文(?)頑張りますね。] 悪魔の涎・追い求める男 他八篇―コ…

非日常への招待状3-コルタサル『遊戯の終わり』

さて、コルタサル『遊戯の終わり』(岩波文庫)の中からいくつか短篇小説を選んで感想を書いてきましたが、今回の更新で『遊戯の終わり』に関しては一旦終わりにしたいと思います。本当はもっともっと書きたい所なのですが、如何せん図書館本なので返却期限…

非日常への招待状2―コルタサル『遊戯の終わり』

前回の続き更新です。今回もコルタサル『遊戯の終わり』から短篇小説を紹介します(というか、ほぼ自分用のメモ状態)。 前回の記事はこちら↓↓ mihiromer.hatenablog.com 4「キクラデス諸島の偶像」 「そうなんだ、説明するにも言葉がないんだ」「少なくとも…

非日常への招待状1―コルタサル『遊戯の終わり』

久しぶりの更新になってしまいました。沈黙している間はだいたいコルタサルの短編小説を読みふけっていました。 今回は岩波文庫『遊戯の終わり』というコルタサルの短編集の中で、特に気に入ったものを取り上げて簡単に紹介しようと思います。 遊戯の終わり …

ラテンアメリカ文学へのいざない

「ラテンアメリカ文学」と呼ばれる文学の地域的な枠組みがある。「フランス文学」や「ドイツ文学」「日本文学」という同列の枠組みよりもややマニアックな印象が、少なくとも私にはある(たぶん大学の文学専攻の友人に「ラテンアメリカ文学専攻」の友人やそ…

「ロビンソン・クルーソーのさらなる冒険」-第2部感想

実は9月30日はロビンソン・クルーソーの誕生日であり、第一部において彼が無人島に漂着した日でもある。なるほど、だから今月はやたらとロビンソン・クルーソーなる人間に憑りつかれているのか……。というか、ロビンソン的に考えれば今月この作品に惹かれたこ…

宗教人としてのロビンソン・クルーソー

さて、しばらくの間『ロビンソン・クルーソー』を話題にしていますが、今日も続きを書いて行こうと思います。前回はざっくり、岩波文庫版『ロビンソン・クルーソー』の感想でしたが、今回はその中でも特に「宗教人」としてのロビンソン・クルーソーについて…

今でも読み継がれる「ロビンソン・クルーソー」

今年のはじめの方に、トゥルニエのロビンソン・クルーソー……というか「フライデーあるいは太平洋の冥界」を呼んだことは以前の記事に書いた通り。 (参照記事↓↓) mihiromer.hatenablog.com 今回は、トゥルニエが「フライデーあるいは太平洋の冥界」を書くに…

フライデーあるいは太平洋の冥界と円環するサーズデー

デフォーの「ロビンソン・クルーソー」(第一部)を読み終わりました。その感想を書く前に、今年の始めくらい(?)にFacebookの方にあげておいた文章をこちらにも載せておこうと思います。 デフォーの「ロビンソン・クルーソー」とはだいぶ違います。時間の…

精神的漂流? ――何故か「ロビンソン・クルーソー」を読む

突然「ロビンソン・クルーソー」を猛然と読み始めた管理人の戯言。

ヒトとウミウシと――「うれし、たのし、ウミウシ。」を読んだ感想

タイトルからウミウシのマニア本だと思って手にとっては見たものの、 実はそれほどウミウシについては語っていなかった……(苦笑)タイトルが誤解を招くのがいただけないかもしれない。語感はよく、なんだか楽しそうで「幸せな」タイトルではあるが。 この本…

「再構築のために徹底的に破壊しろ。」――羽田圭介「スクラップ・アンド・ビルド」(第153回芥川賞受賞作)

羽田圭介「スクラップ・アンド・ビルド」(第153回芥川賞受賞作)について率直な感想を書いていこうと思う。 以下の引用頁番号はすべて『文芸春秋』2015年9月号に掲載されたものである。 28才無職(求職中)の主人公健斗が、実家で母とともに祖父の介護に携わ…

「現実サイズ」とは違った日和――滝口悠生「わたしの小春日和」

滝口悠生「わたしの小春日和」(新潮2012年12月号) 今期の芥川賞ノミネート作家、滝口悠生。 その作品「ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス」については以前書いたので、今回は敢えて「わたしの小春日和」(新潮2012年12月号掲載)を掘り出して感想をま…

交流、混淆、変容 ―『アイヌ学入門』という本から再確認した文化観

長い間漠然と疑問に思っていたことに、なんとなく決着がついたような心持になっている……。そういうことってありませんか? すっきりしたというか、なんとなく思考の入り口みたいなものが見つかってほっとしたというか。 瀬川拓郎『アイヌ学入門』(講談社現…

光と風と空と、子供の世界――ル・クレジオ『海を見たことがなかった少年』

ジェンナでは、時は他処(よそ)と同じ仕方ではすぎなかった。おそらくそれどころか日々はまったくすぎさえしていなかったのだ。数々の夜があり、昼があり、そしてゆっくりと青い空にのぼる太陽が、また地面の上で短くなり、それから長くなる影があった、け…

灰汁をもって生きよう――「水木しげる出征前手記」から考えたこと

「キリスト教はキリストのもの、仏教は釈迦のもの…… どんなに苦しくても、どんなにつまらなくなっても自分の道を造るためにこの混乱不安の中にとどまらうではないか。キリストは、自分の道を造つたから悲壮と言ふものさ。ステパノ〔キリスト教最初の殉教者〕…

滝口悠生「ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス」(新潮2015年5月号掲載)に寄せて

2016年2月7日追記 遅くなりましたが、単行本出てます。電子書籍版もあるようなので、ジミヘンはエレキっしょ!という方はそちらもどうぞ。 ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス 作者: 滝口悠生 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2015/08/31 メディア: 単行…

かたちはなくとも

「何か課題を設定して自分を縛ることは自分を楽にすることだ、といことに気がついてほしい。何も現実的な課題を設定せずに今の状態にどっぷり浸って、漠然としたことばかりを考える。この不安さ、不安定さは、小説にかぎらず、創作や表現にかかわることをし…

私の読書スタイル

本を読んでいると、小説でも学術書であっても、 なんとなく気になる部分って出てくるじゃないですか?パラグラフ丸ごと一つだったり、一行だったり、一言だったり。それはその時によって違うけれど、どうしようもなく気になる部分が出てきた時、皆さんはどう…

ブログ開設

私は世の中の潮流、みたいなものに上手に合わせていけないタイプらしい。 そんなことを薄々感じながらも、どうにかこうにか合わせて生きていて、様々なSNS(小説投稿サイトやtwitterなどなど)で知り合った人々と流れるままにだらだらと関わってきたよう…