言葉でできた夢をみた。

海の底からわたしをみつめる眼は、きっといつか沈めてしまったわたし自身の眼なのだろう。(書きながら、勉強中。)

ヒトとウミウシと――「うれし、たのし、ウミウシ。」を読んだ感想

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タイトルからウミウシのマニア本だと思って手にとっては見たものの、

実はそれほどウミウシについては語っていなかった……(苦笑)タイトルが誤解を招くのがいただけないかもしれない。語感はよく、なんだか楽しそうで「幸せな」タイトルではあるが。

 

この本の裏表紙に書いてある紹介文をそのまま引用させていただこう。

「海の宝石と称され、その華麗な色や形態からダイバーたちに大人気の海洋生物ウミウシ。しかし美しい姿とは裏腹にヒトが想像もつかないような驚くべき繁殖戦略をおこなっている! ウミウシをはじめ、奇想天外なあの手この手を駆使してたくましく生きる海の生き物たちのふしぎと海洋生物を対象とする行動生物学者たちの生態に迫るエッセイ。」

 

ん……? ほう、そうか!

これは……この本は行動生物学者たちの生態に迫ったエッセイだったのか!!

と、激しく納得した。そうなのである、この本はウミウシよりも何よりも、作者のユーモアこそを売りにしてもいいくらいの書籍だったのだ(笑)作者のユーモラスな感性には愛すら感じた。一番笑ったのはかなり最初のほうに出てくるこの部分であった。

 

「ぼくは、大学院入学後に一年足らずウミウシの配偶行動を研究したところで、研究を中断した。当時は、ウミウシのあののろのろした動きを時間をかけて観察することに耐えられず、もっと動きの速い動物を対象にして研究したくなったのだ。それから三〇年ほどが経ち、歳のせいで動体視力が衰えてくると、あれくらい鈍いのがちょうどよくなって研究を再開した。」(本文4頁より引用)

 

久しぶりに声に出して笑った。ある意味若い学者の生態に迫っている。ウミウシについて私は全く素人だが、たぶんあののろのろした動きを辛抱強く観察するのは大変なことなのだろう。しかも学者である以上、成果を求められるのである。早くしてくれ、ウミウシ……!! 若い研究者ほどそういう焦燥に駆られるに違いない。

どうやらウミウシは研究対象としてもマニアックな分野らしく、研究者も少なく、また先行研究も少ないらしい。ウミウシという存在は見た目ほど煌びやかでメジャーな存在ではなかったようだ。

著者の他にも海外の研究者や学生たちの奮闘ぶりが描かれている。

 

目次の最後の章「6博物館の光と陰」という部分は、学芸員の資格取得を目指す大学生は目を通したほうが良いと思う。「博物館学」の視点があると「そうだよな~」と共感してしまう。最新の研究成果を一般にわかりやすく、かつ面白く展示するということ、広義の博物館(動物園や水族館も含む)の施設としての制約(維持費、老朽化の問題)もあり、難しいのだ、標本展示。

 

この本には勿論ウミウシの研究の話も書かれている。書かれているが、ウミウシマニアには絶対に物足りない。ウミウシについて知りたい!という人というよりは、私のようにウミウシ初心者ではあるが、生き物全般に愛がある人におススメしたいエッセイ集である。難しい本ではないので、何かの息抜きにほんわかしたい時にぴったりだ。

 

「あとがき」によるとこの本は、

雑誌『科学』(岩波書店)に2005年6月号から2013年10月号まで「星砂Times」のタイトル名で隔月に計51回連載されたエッセイのうち約半数の23編を選び、さらに2013年7月の同誌「特集 沖縄の自然」と2014年7月「特集 愛と性の科学」に掲載されたエッセイを加えたものである、とのことであった。

 

うれし、たのし、ウミウシ。 (岩波科学ライブラリー)

うれし、たのし、ウミウシ。 (岩波科学ライブラリー)