言葉でできた夢をみた。

海の底からわたしをみつめる眼は、きっといつか沈めてしまったわたし自身の眼なのだろう。(書きながら、勉強中。)

読書日記

人と蚕が紡いだ歴史、産業、文化―畑中章宏『蚕―絹糸を吐く虫と日本人』

今回ご紹介する本はこちら↓↓ 畑中章宏『蚕―絹糸を吐く虫と日本人』(晶文社、2015年) 蚕: 絹糸を吐く虫と日本人 作者: 畑中章宏 出版社/メーカー: 晶文社 発売日: 2015/12/11 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (3件) を見る アカデミックなところでは…

ナボコフが語る『アンナ・カレーニナ』―悪夢という主題のこと、時間操作のこと。

今回の更新でトルストイ『アンナ・カレーニナ』に関する一連の記事は終わりにしたい。大長編を読むと、ブログの記事も長くなってしまう……。いいのか、悪いのか。 予告通り、今回は『アンナ・カレーニナ』自体というよりは、ナボコフが語った『アンナ・カレー…

生きることと読むこと。アンナと読書―トルストイ『アンナ・カレーニナ』

今回は「アンナと読書のこと」と題して≪生きることと読むこと≫という視点から『アンナ・カレーニナ』について書いていきたい。 アンナ・カレーニナ〈下〉 (岩波文庫) 作者: トルストイ,中村融 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 1989/11/16 メディア: 文庫 …

印象が風景と溶け合う描写の瞬間―トルストイ『アンナ・カレーニナ』

過去に、トルストイの後期作品『復活』について書いた時にも注目した風景描写であるが、『アンナ・カレーニナ』でも素晴らしい自然風景が描かれている。今回の記事では『アンナ・カレーニナ』に描かれた美しい風景を引用でいくつか紹介したい。人の印象や心…

生と死のコントラスト―トルストイ『アンナ・カレーニナ』

「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである。」(トルストイ/中村融 訳『アンナ・カレーニナ』上巻、5頁作品冒頭部より引用) アンナ・カレーニナ〈上〉 (岩波文庫) 作者: トルストイ,中村融 出版社/メーカー: 岩波…

「どっこい生きてる」人に寄り添う―栗林佐知『はるかにてらせ』

今回は、栗林佐知『はるかにてらせ』(未知谷 2014年)についての感想。 はるかにてらせ 作者: 栗林佐知 出版社/メーカー: 未知谷 発売日: 2014/10 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る あー、今私、絶対汚いこと思ってるよね、っていうか心の中で…

過去を生き直す眼差―ル・クレジオ『春 その他の季節』

今回は、ル・クレジオ(佐藤領時 訳)『春 その他の季節』(集英社 1993年)について書いていく。 春 その他の季節 作者: ジャン・マリ・ギュスターヴル・クレジオ,J.M.G. Le Clezio,佐藤領時 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 1993/09 メディア: 単行本 購…

本は読みたいようにしか読めない、ということに自覚的であること。

今回も『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』という本を読んで考えたことについて書いていきたい(今回でこのシリーズ(?)終わりにしたいと思います。実にいろいろなことを考えさせられた本だった、おススメです。) 関連記事↓↓ mihiromer.hatenablo…

「生涯学習」のふたつの側面、あるいはこれはエグイことかもしれない

今回は前回の記事の最後に予告した通り【「生涯学習」のふたつの側面、あるいはこれはエグイことかもしれない】ということについて考えたことを書いていきたい。だいたい『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』という本を読みながら考えていたことだ。 …

本棚に入れたい本―『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』

この本は、ウンベルト・エーコとジャン=クロード・カリエールによる、書物やその歴史から文化というものについてまで幅広く、時にマニアックに語った対談です。 もうすぐ絶滅するという紙の書物について 作者: ウンベルト・エーコ,ジャン=クロード・カリエ…

過去に、未来に、手を伸ばす―ル・クレジオ『パワナ―くじらの失楽園』

「それが始まりだった、まったくの始まりだった、そのとき海には誰ひとりいなかったし、鳥たちは太陽の光と果てしない水平線のほかなにひとつなかった。幼いころから、わたしはそこへ、すべてが始まりすべてが終る場所へ、行きたいと夢みていた。」 (ル・ク…

縁とは、無限の渦潮に似ている―いしいしんじ『悪声』

いしいしんじの作品で私が初めて読んだのは新潮2011年9月号に掲載されていた「ある一日」という小説だった。この作家の作品は、書くことに悩んで執筆の手が止まりかけた私にいつも火をつける。本の中から溢れ出し、膨らむイメージの奔流に、私の悩みは押し流…

語る―ガルシア=マルケス『ぼくはスピーチをするために来たのではありません』

今回は、前回の記事で触れた書籍、G.ガルシア=マルケス『ぼくはスピーチをするために来たのではありません』(木村榮一訳、新潮社2014)についての紹介です。 ぼくはスピーチをするために来たのではありません 作者: ガブリエルガルシア=マルケス,Gabriel G…

孤独な風景がみえてくる―ヘンリー・ジェイムズ『ねじの回転』

ヘンリー・ジェイムズ(蕗沢忠枝訳)『ねじの回転』(新潮文庫) ねじの回転 (新潮文庫) 作者: ヘンリー・ジェイムズ,蕗沢忠枝 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1962/07/09 メディア: 文庫 購入: 6人 クリック: 29回 この商品を含むブログ (36件) を見る 読…

食い合う果ての消滅―本谷有希子「異類婚姻譚」

「暮らし」というものには痕跡がある。その痕跡だけが示されると、暮らしの主体たる個人の不在が際立つものだ。たとえばこの小説に出てくるものなら、これから山へ捨てられる猫サンショの生活用品、部屋に残される強烈な尿の臭い、家にいないはずの時間に玄…

『ボルヘスとわたし』と私―ボルヘスについてまとめ

これまで何度かに分けてボルヘスの『伝奇集』や『創造者』について書いてきたが、時々引用につかっていた『ボルヘスとわたし』という書物について、一記事書くことは無意味なことではないと思う。私が用いていたのは、J.Lボルヘス著、牛島信明訳『ボルヘスと…

シンメトリーと軽度のアナクロニズム―ボルヘス『伝奇集』

今回の更新でひとまず、ボルヘスの『伝奇集』については終わりにしたいと思う。いやいや、随分長々と語ってしまった笑。でもなんだかんだ言って、やっぱりボルヘスは『創造者』が一番良いように思ってしまいます(汗)勿論、『伝奇集』も楽しめましたが。 今…

まるでこの世界は迷路じゃないか―ボルヘス『伝奇集』

今回はボルヘス『伝奇集』より「バベルの図書館」と「八岐の園」という短篇小説について書いていきます。 ■「バベルの図書館」 (他の者たちは図書館と呼んでいるが)宇宙は、真ん中に大きな換気孔があり、きわめて低い手すりで囲まれた、不定数の、おそらく…

「世界はトレーンとなるだろう。」―ボルヘス『伝奇集』

J.L.ボルヘス『伝奇集』を読んだ。今回からしばらくこの本の中から私が好きな短編作品を取り上げていきたいと思う(一体何作分書くのやら)。 伝奇集 (岩波文庫) 作者: J.L.ボルヘス,鼓直 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 1993/11/16 メディア: 文庫 購入…

読書の車窓から―磯崎憲一郎『電車道』

「これではまるで自分の過去に、ずっと密かに後をつけられていたようなものだな」 (磯﨑憲一郎『電車道』132頁より引用) 電車道 作者: 磯崎憲一郎 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2015/02/27 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (9件) を見る 今回は…

表現への驚きと謙虚さボルヘス―『創造者』

ホルヘ・ルイス・ボルヘス(1899ー1986)は、アルゼンチン出身の作家、小説家、詩人であり、「夢や迷宮」「無限の循環」「架空の書物や作家」「宗教・神」などをモチーフとする幻想的な短編作品によって知られている。 ……とかいうのはウィキペディアからざっ…

酔っ払い小説―滝口悠生「文化」「夜曲」

滝口悠生さん、改めまして芥川賞受賞おめでとうございます。デビュー作「楽器」(新潮新人賞受賞)から淡々とやっていたような印象があります。デビューから読んでいた作家の受賞は、私が「書き続ける」ということのモチベーションになるみたいです(笑) 今…

アジール、道祖神としての廃車―絲山秋子『薄情』

今回はこの小説作品について。 薄情 作者: 絲山秋子 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2015/12/18 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (1件) を見る 絲山秋子の「薄情」という小説を読んでいて、ふと思い浮かんだ言葉、それが「アジール」だった。アジー…

静かで、綺麗で、切ない―ブルーノ・タウトの文章

不思議だな、と思うこと。 ブルーノ・タウトがナチスによって祖国から迫害されなかったら、今私は彼の著作を読んでいないだろうな、ということ。同時にブルーノ・タウトが「日本美を再発見」することもなかっただろうな、ということ。世界史的な出来事が、こ…

ブルーノ・タウト―2 眼が思考するということ、「床の間」と「博物館」

「床の間は芸術および芸術の集合場所であって、そこに据えられた僅かな什器と相俟って、思いのままに変ずる独自の雰囲気を部屋に与えさらにまた、部屋そのものに対して均衡によるあたうる限り間然するところのない純粋さを要求する。これを煎じ詰めていえば…

ブルーノ・タウト―概要、文化論もろもろ

私がブルーノ・タウト(1880-1938)という建築家を知ったのは昨年のことで、とある文学論を読んでいた時に引用されていた一節がきっかけだった。 その一節というのは「眼が思考する」ということだった。思わず部屋中をぐるりと見回してしまったが、私の眼は…

消える境界線―仙田学「中国の拷問」

「うちのダンナが変態はじめたの。朝のばたばたしてるときに、いつもはあたしが触らせない台所でうろうろしてるから、やめてよって腕を摑んだら氷柱みたいに冷たいのよ。」 (仙田学「中国の拷問」冒頭部分、『盗まれた遺書』所収、125頁より引用) こんな魅…

愛と死と孤独―トルストイ「イワン・イリイチの死」「クロイツェル・ソナタ」

しばらく前にトルストイの『復活』という小説作品について書きました。 mihiromer.hatenablog.com もう少しトルストイを読もうと思い、今回は光文社古典新訳文庫から「イワン・イリイチの死」(1886年)、「クロイツェル・ソナタ」(1889年)という後期トル…

膨れ上がっていく夏、あふれこぼれおちる感情―杉本裕孝「花の守」

杉本裕孝「花の守」(文學界新人賞受賞第一作、文學界2016年2月号掲載)を読んだ。 半分夢にでも浸かっているような現が、豊かな比喩表現で膨張していく。「花の守」という雅語から引き出される日本的で、うすい色をした美しさ。その淡さの中に細い髪の毛の…

使用済み、トナー、工場ウ、私、こんな風に社会を切り取ること―小山田浩子「工場」

今回は、小山田浩子『工場』(新潮社2013)より 「工場」(初出「新潮」2010年11月号)についての感想。 工場 作者: 小山田浩子 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2013/03 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (28件) を見る 嘘くさいレベルで巨大な工場…