2016-01-01から1年間の記事一覧
吃音というものが実際どういうものであるのか、厳密な定義はよくわからないが、私にはどもっていた時期がある。どういうわけだか「どもる」のは常に職場だけであり、そこでの日常生活に著しく支障をきたしていたが、休日に仕事とは全く別の場所、別の人と話…
美しく生きるのは難しい。世界がごちゃごちゃになっている、というのが最近のニュースやSNSを見ていて思う私の雑感だったりする。そう世界がごちゃごちゃ。これは自分が大人になったから引き受けなければならなくなった社会的な責任なのか、それともやっぱり…
カルロス・フエンテス(1928-2012)という小説家の作品を今回初めて読んだ。今回はこの本についての感想。 カルロス・フエンテス、寺尾隆吉 訳『澄みわたる大地』(現代企画室、2012年) 澄みわたる大地 作者: カルロスフエンテス,Carlos Fuentes,寺尾隆吉 …
仙田学が変態はじめしたの。TLのばたばたしてるときに、いつもはあたしが買わない文芸誌でうろうろしてるから、いいぞもっとやれって検索かけたら……。 (@MihiroMer twitterより抜粋) 今回は仙田学「愛と愛と愛」(160枚、文藝2016年秋号掲載)について書い…
道は上りになったり下りになったりしていた。「行くか来るかで、上りになったり下りになったりするんだよ。行く人には上り坂、来る人には下り坂」 「下の方に見えるあの町はなんていうんだい?」 「コマラだよ、旦那」 (前掲書、8頁より引用) ラテンアメリ…
先日、このブログを始めてから1年経ちました、というメールが届いた。どうやら1年続いたらしい当ブログ。1周年記念を謳った特別な更新は何もしないけれど、今後とも当ブログをよろしくお願いします(いつも見に来てくれる方々、本当にありがとうございます!…
僕の舌には、嘔吐の味のようなものがあった。暑くて、あらゆるものがじっとりと汗をかいていた。自分でも覚えているが、僕は学生ノートを一ページ破り、その真ん中に書いた。 蟻どもにおける ある破局の調書 (ル・クレジオ 著、豊崎光一 訳『調書』(新潮社…
フランツ・カフカ、頭木弘樹『絶望名人カフカの人生論』(飛鳥新社、2011年) 絶望名人カフカの人生論 作者: フランツ・カフカ,頭木弘樹 出版社/メーカー: 飛鳥新社 発売日: 2011/10/22 メディア: 単行本 購入: 3人 クリック: 48回 この商品を含むブログ (26…
さて予告通り前回の続き。 実際、この本はひとつの物体として美しいのでおすすめである。 ねむり 作者: 村上春樹,カット・メンシック 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2010/11/30 メディア: ハードカバー 購入: 2人 クリック: 24回 この商品を含むブログ (3…
今回から2回に分けてこの本について。 村上春樹、カット・メンシック(イラストレーション)『ねむり』(新潮社 2010年) ねむり 作者: 村上春樹,カット・メンシック 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2010/11/30 メディア: ハードカバー 購入: 2人 クリック…
今も昔も、人間は絶えずフィクションを生み出し続け、語り続けている。物語る、ということに終わりはなさそうだ。今回ここで紹介する小説、バルガス=リョサ『密林の語り部』はズバリ、「物語」というものについて掘り下げた作品だ。 バルガス=リョサ(西村…
今回ご紹介する本はこちら↓↓ 畑中章宏『蚕―絹糸を吐く虫と日本人』(晶文社、2015年) 蚕: 絹糸を吐く虫と日本人 作者: 畑中章宏 出版社/メーカー: 晶文社 発売日: 2015/12/11 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (3件) を見る アカデミックなところでは…
今回の更新でトルストイ『アンナ・カレーニナ』に関する一連の記事は終わりにしたい。大長編を読むと、ブログの記事も長くなってしまう……。いいのか、悪いのか。 予告通り、今回は『アンナ・カレーニナ』自体というよりは、ナボコフが語った『アンナ・カレー…
今回は「アンナと読書のこと」と題して≪生きることと読むこと≫という視点から『アンナ・カレーニナ』について書いていきたい。 アンナ・カレーニナ〈下〉 (岩波文庫) 作者: トルストイ,中村融 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 1989/11/16 メディア: 文庫 …
過去に、トルストイの後期作品『復活』について書いた時にも注目した風景描写であるが、『アンナ・カレーニナ』でも素晴らしい自然風景が描かれている。今回の記事では『アンナ・カレーニナ』に描かれた美しい風景を引用でいくつか紹介したい。人の印象や心…
「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである。」(トルストイ/中村融 訳『アンナ・カレーニナ』上巻、5頁作品冒頭部より引用) アンナ・カレーニナ〈上〉 (岩波文庫) 作者: トルストイ,中村融 出版社/メーカー: 岩波…
今回は、栗林佐知『はるかにてらせ』(未知谷 2014年)についての感想。 はるかにてらせ 作者: 栗林佐知 出版社/メーカー: 未知谷 発売日: 2014/10 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る あー、今私、絶対汚いこと思ってるよね、っていうか心の中で…
今回は、ル・クレジオ(佐藤領時 訳)『春 その他の季節』(集英社 1993年)について書いていく。 春 その他の季節 作者: ジャン・マリ・ギュスターヴル・クレジオ,J.M.G. Le Clezio,佐藤領時 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 1993/09 メディア: 単行本 購…
今回も『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』という本を読んで考えたことについて書いていきたい(今回でこのシリーズ(?)終わりにしたいと思います。実にいろいろなことを考えさせられた本だった、おススメです。) 関連記事↓↓ mihiromer.hatenablo…
今回は前回の記事の最後に予告した通り【「生涯学習」のふたつの側面、あるいはこれはエグイことかもしれない】ということについて考えたことを書いていきたい。だいたい『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』という本を読みながら考えていたことだ。 …
この本は、ウンベルト・エーコとジャン=クロード・カリエールによる、書物やその歴史から文化というものについてまで幅広く、時にマニアックに語った対談です。 もうすぐ絶滅するという紙の書物について 作者: ウンベルト・エーコ,ジャン=クロード・カリエ…
「それが始まりだった、まったくの始まりだった、そのとき海には誰ひとりいなかったし、鳥たちは太陽の光と果てしない水平線のほかなにひとつなかった。幼いころから、わたしはそこへ、すべてが始まりすべてが終る場所へ、行きたいと夢みていた。」 (ル・ク…
いしいしんじの作品で私が初めて読んだのは新潮2011年9月号に掲載されていた「ある一日」という小説だった。この作家の作品は、書くことに悩んで執筆の手が止まりかけた私にいつも火をつける。本の中から溢れ出し、膨らむイメージの奔流に、私の悩みは押し流…
今回は、前回の記事で触れた書籍、G.ガルシア=マルケス『ぼくはスピーチをするために来たのではありません』(木村榮一訳、新潮社2014)についての紹介です。 ぼくはスピーチをするために来たのではありません 作者: ガブリエルガルシア=マルケス,Gabriel G…
ヘンリー・ジェイムズ(蕗沢忠枝訳)『ねじの回転』(新潮文庫) ねじの回転 (新潮文庫) 作者: ヘンリー・ジェイムズ,蕗沢忠枝 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1962/07/09 メディア: 文庫 購入: 6人 クリック: 29回 この商品を含むブログ (36件) を見る 読…
「暮らし」というものには痕跡がある。その痕跡だけが示されると、暮らしの主体たる個人の不在が際立つものだ。たとえばこの小説に出てくるものなら、これから山へ捨てられる猫サンショの生活用品、部屋に残される強烈な尿の臭い、家にいないはずの時間に玄…
これまで何度かに分けてボルヘスの『伝奇集』や『創造者』について書いてきたが、時々引用につかっていた『ボルヘスとわたし』という書物について、一記事書くことは無意味なことではないと思う。私が用いていたのは、J.Lボルヘス著、牛島信明訳『ボルヘスと…
今回の更新でひとまず、ボルヘスの『伝奇集』については終わりにしたいと思う。いやいや、随分長々と語ってしまった笑。でもなんだかんだ言って、やっぱりボルヘスは『創造者』が一番良いように思ってしまいます(汗)勿論、『伝奇集』も楽しめましたが。 今…
今回はボルヘス『伝奇集』より「バベルの図書館」と「八岐の園」という短篇小説について書いていきます。 ■「バベルの図書館」 (他の者たちは図書館と呼んでいるが)宇宙は、真ん中に大きな換気孔があり、きわめて低い手すりで囲まれた、不定数の、おそらく…
前回に引き続き、今回もボルヘスの『伝奇集』から「アル・ムターシムを求めて」と「円環の廃墟」という二つ短篇小説を紹介する。 伝奇集 (岩波文庫) 作者: J.L.ボルヘス,鼓直 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 1993/11/16 メディア: 文庫 購入: 32人 クリ…