言葉でできた夢をみた。

海の底からわたしをみつめる眼は、きっといつか沈めてしまったわたし自身の眼なのだろう。(書きながら、勉強中。)

2016-01-01から1年間の記事一覧

「世界はトレーンとなるだろう。」―ボルヘス『伝奇集』

J.L.ボルヘス『伝奇集』を読んだ。今回からしばらくこの本の中から私が好きな短編作品を取り上げていきたいと思う(一体何作分書くのやら)。 伝奇集 (岩波文庫) 作者: J.L.ボルヘス,鼓直 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 1993/11/16 メディア: 文庫 購入…

読書の車窓から―磯崎憲一郎『電車道』

「これではまるで自分の過去に、ずっと密かに後をつけられていたようなものだな」 (磯﨑憲一郎『電車道』132頁より引用) 電車道 作者: 磯崎憲一郎 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2015/02/27 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (9件) を見る 今回は…

表現への驚きと謙虚さボルヘス―『創造者』

ホルヘ・ルイス・ボルヘス(1899ー1986)は、アルゼンチン出身の作家、小説家、詩人であり、「夢や迷宮」「無限の循環」「架空の書物や作家」「宗教・神」などをモチーフとする幻想的な短編作品によって知られている。 ……とかいうのはウィキペディアからざっ…

酔っ払い小説―滝口悠生「文化」「夜曲」

滝口悠生さん、改めまして芥川賞受賞おめでとうございます。デビュー作「楽器」(新潮新人賞受賞)から淡々とやっていたような印象があります。デビューから読んでいた作家の受賞は、私が「書き続ける」ということのモチベーションになるみたいです(笑) 今…

アジール、道祖神としての廃車―絲山秋子『薄情』

今回はこの小説作品について。 薄情 作者: 絲山秋子 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2015/12/18 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (1件) を見る 絲山秋子の「薄情」という小説を読んでいて、ふと思い浮かんだ言葉、それが「アジール」だった。アジー…

静かで、綺麗で、切ない―ブルーノ・タウトの文章

不思議だな、と思うこと。 ブルーノ・タウトがナチスによって祖国から迫害されなかったら、今私は彼の著作を読んでいないだろうな、ということ。同時にブルーノ・タウトが「日本美を再発見」することもなかっただろうな、ということ。世界史的な出来事が、こ…

ブルーノ・タウト―2 眼が思考するということ、「床の間」と「博物館」

「床の間は芸術および芸術の集合場所であって、そこに据えられた僅かな什器と相俟って、思いのままに変ずる独自の雰囲気を部屋に与えさらにまた、部屋そのものに対して均衡によるあたうる限り間然するところのない純粋さを要求する。これを煎じ詰めていえば…

ブルーノ・タウト―概要、文化論もろもろ

私がブルーノ・タウト(1880-1938)という建築家を知ったのは昨年のことで、とある文学論を読んでいた時に引用されていた一節がきっかけだった。 その一節というのは「眼が思考する」ということだった。思わず部屋中をぐるりと見回してしまったが、私の眼は…

消える境界線―仙田学「中国の拷問」

「うちのダンナが変態はじめたの。朝のばたばたしてるときに、いつもはあたしが触らせない台所でうろうろしてるから、やめてよって腕を摑んだら氷柱みたいに冷たいのよ。」 (仙田学「中国の拷問」冒頭部分、『盗まれた遺書』所収、125頁より引用) こんな魅…

愛と死と孤独―トルストイ「イワン・イリイチの死」「クロイツェル・ソナタ」

しばらく前にトルストイの『復活』という小説作品について書きました。 mihiromer.hatenablog.com もう少しトルストイを読もうと思い、今回は光文社古典新訳文庫から「イワン・イリイチの死」(1886年)、「クロイツェル・ソナタ」(1889年)という後期トル…

膨れ上がっていく夏、あふれこぼれおちる感情―杉本裕孝「花の守」

杉本裕孝「花の守」(文學界新人賞受賞第一作、文學界2016年2月号掲載)を読んだ。 半分夢にでも浸かっているような現が、豊かな比喩表現で膨張していく。「花の守」という雅語から引き出される日本的で、うすい色をした美しさ。その淡さの中に細い髪の毛の…

使用済み、トナー、工場ウ、私、こんな風に社会を切り取ること―小山田浩子「工場」

今回は、小山田浩子『工場』(新潮社2013)より 「工場」(初出「新潮」2010年11月号)についての感想。 工場 作者: 小山田浩子 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2013/03 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (28件) を見る 嘘くさいレベルで巨大な工場…

描写のこと。―トルストイ「復活」

前回は二項対立ということを主軸にトルストイ「復活」について語った。おかげで気に入っている風景描写について語る余裕がなくなってしまったので、今回は後者を中心に記事を書くことにする。 前回と同じく、引用頁番号は藤沼貴 訳の『復活』(上下巻、岩波…

二項対立の間、遍歴する思索と行動―トルストイ「復活」1

トルストイの「復活」という作品を読んだ。トルストイは「戦争と平和」(1869)「アンナ・カレーニナ」(1877)が有名だろうが、今回は敢えて岩波文庫全2巻で終わるから、という不純な動機で「復活」を選んだ。 今回読んだ「復活」という作品は1899年のもの…

雑踏に、遠景になる者―カフカ「失踪者」

「カフカエスク」という言葉があることを最近知った。「カフカのような」、とか「カフカ作品にあるような不条理な」、という意味らしい。年末からしばらくカフカ作品に触れ、ずいぶん「カフカエスク」を味わってきた気がする。今回は2015年末に読んでいた「…