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Danse Macabre!

海の底からわたしをみつめる眼は、きっといつか沈めてしまったわたし自身の眼なのだろう。

光と風と空と、子供の世界――ル・クレジオ『海を見たことがなかった少年』

 ジェンナでは、時は他処(よそ)と同じ仕方ではすぎなかった。おそらくそれどころか日々はまったくすぎさえしていなかったのだ。数々の夜があり、昼があり、そしてゆっくりと青い空にのぼる太陽が、また地面の上で短くなり、それから長くなる影があった、けれどもそのことはもはや以前のように重要ではなかった。ガスパールはそれを気にもとめていなかった。彼にはしょっちゅう同じ日がまた始まるように思えた、とても長くていつまでも終わることはあるまい一日が。

 ル・クレジオ「牧童たち」(『海を見たことがなかった少年―モンドほか子供たちの物語』所収)より引用

 

さて、ぼちぼち子供たちの夏休みが始まっていることでしょう……。

羨ましいですね。私には当然のようにお盆休みはなく、有給休暇さえ使えないありさまです(とほほ……)

 

と、愚痴はほどほどに(苦笑)

約一年ぶりにこの小説を読み返しました。8編の短編小説所収の文庫本です。

必ずしも「夏」が舞台というわけではない小説ですが、私は毎年夏になると読み返したくなります。それはたぶん、子供時代の夏休みの思い出のせいかもしれません。

子供時代の時間は途方もなく長く、いつまで経っても大人になれないような気さえしていました、この感覚はきっと私だけではないはず……。

今とは世界の見え方が全然違っていて、何もかもが新鮮だったからあんなに一日が長かったのかな? と時々考えてしまいます。

この短編小説はどれもそんな懐かしい感覚が描かれています。

些細な日常(見方によれば悲惨な現実)の中に生きる子供たちが描かれますが、彼らの視線には不幸な現実よりも、「非現実的」な光が映っています(とにかく光の描写が印象的なのです)。

 

作中の子供たちがみる光景は大人の目線でみればどれもありふれたもの。

そんな日常的な光景に神話のような美しさを見出し、描きだした作者ル・クレジオは、子供時代の懐かしい感覚を覚えていたのかもしれませんね。

 

だけれど、子供時代の感覚だけで人は生きられない、そしてその感覚はいつかは失われてしまうもの……。最後の一編「牧童たち」を読み終えた時、寂しい風が私のそばを吹き抜けて行ったような、そんな感じがいたしました。

 

海を見たことがなかった少年―モンドほか子供たちの物語 (集英社文庫)

海を見たことがなかった少年―モンドほか子供たちの物語 (集英社文庫)