言葉でできた夢をみた。

海の底からわたしをみつめる眼は、きっといつか沈めてしまったわたし自身の眼なのだろう。(書きながら、勉強中。)

ちいさな文芸誌たちのこと

最近、「ちいさな文芸誌」に注目している。

ここで「ちいさな」という言葉を使ったのは、単にいわゆる「五大文芸誌」と区別するためで否定的な意味はない。大手出版社が刊行しているのとは別の文芸誌、という程度の意味である。誌面はとても充実していて、作り手の大きな熱意がダイレクトに伝わってくる、発行ペースはゆっくりだけれど読みとばすページがない、そんな素敵な文芸誌がある。第155回芥川賞候補作である今村夏子「あひる」が掲載されていたことで話題になった『たべるのがおそい』がもっとも知られているかもしれないが、今回は私が実際に目を通した『吟醸掌篇』と『草獅子』というふたつの「ちいさな文芸誌」を紹介したい。

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■『吟醸掌篇』

 

編集工房けいこう舎、2016年4月

編集人:栗林佐知

編集工房けいこう舎サイト

 

吟醸掌篇 vol.1

吟醸掌篇 vol.1

  • 作者: 志賀泉,山脇千史,柄澤昌幸,小沢真理子,広瀬心二郎,栗林佐知,江川盾雄,空知たゆたさ,たまご猫,山?まどか,木村千穂,有田匡,北沢錨,坂本ラドンセンター,こざさりみ,耳湯
  • 出版社/メーカー: けいこう舎
  • 発売日: 2016/05/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • この商品を含むブログを見る
 

 

 〈ほかでは読めない作家たち、集まりました。〉

 

私が一番最初に手に取った「ちいさな文芸誌」である『吟醸掌篇 vol.1』は短編小説6本、コラム3本を集めたアンソロジーである。サイトによると、「新人賞受賞後、発表の場を得られないものの、めげずに書き続けている連中が、それぞれ自分ならではの、どうしても書きたいものを出し合ってつくる短篇アンソロジー」だそう。

「ほかでは読めない作家」=「売れない作家」ではない。「こういう作品なら売れるor売れない」という出版界の「常識」からの自由も謳歌したいとサイトにはあった。つまりそれぞれの書き手が文芸界隈の流行に左右されることなく、書きたいものに全力投球したという気概あふれるアンソロジーなのだ。他媒体では扱わないテーマ、作風にも出会いたい、と編集後記にはあった。

小説作品の他に読書家の方々による書籍に関するコラムがあったり、表紙絵、挿絵も充実している(表紙絵以外は買ってみないと見ることができないのだけど、かなりかっこいいイラストや綺麗なイラストがあったり)。

価格も一作の分量も「知らない作家」を新しく知るために読むのにちょうどいい。1冊800円+税。「ほかでは読めない作家たち」に出会ってみるのも読書の旅の醍醐味だと思う。

ひとつだけ引用させてください。

 

「わたしは目を閉じ、ねずみを水面下に沈める。ねずみの苦悶が捕鼠器の取っ手から指に伝わる。わたしの脳裏に、津波に呑まれて死んでいく人たちの『阿鼻叫喚が響く。濁流に揉まれ水底に引きずり込まれていく人たちのなかに、わたしの姿もある。

 やがて捕鼠器の振動が消える。わたしの全身が静まる。」

(志賀泉「いかりのにがさ」より引用)

この作者が目指しているのは「フクシマを世界文学に!」

 

 

関連リンク↓↓

 

discocat.hatenablog.com

 

 『吟醸掌篇vol.1』にいただいたお言葉 - Togetterまとめ

 

 

■『草獅子』

 

双子のライオン堂、2016年11月

発行人:竹田信弥

編集人:寺田幹太

本屋発の文芸誌『草獅子』/公式サイト

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〈文学のたのしみを身近に[そう・しし]〉

 

本屋発の文芸誌ということで話題になっていた『草獅子 vol.1』。特集[終末。あるいは始まりとしてのカフカ]をはじめ、小説、マンガ、俳句、短歌、詩、論考やコラム、ブックレビューまで幅広く充実した誌面は既存の文芸誌を意識した作りになっている。この一冊でいろいろな角度から楽しめるという文芸誌の醍醐味を本屋が作り上げてしまった……!

双子のライオン堂は、東京赤坂にある選書専門店。『ほんとの出会い』『100年残る本と本屋』をモットーに2013年にオープン(以上の情報は双子のライオン堂サイトより)。既存のくくり(書籍のジャンルなどのよくある分類)に縛られない本の展示、販売を行っている。また読書会や古本市などイベントも多数開催している模様。『草獅子』発行人の竹田さんは双子のライオン堂の店主である。以前、小説家の絲山秋子さんのラジオ番組(絲山秋子のゴゼンサマ、ラジオ高崎、毎週金曜5:45~)に電話出演した際、『草獅子』について「宴みたいな」という表現をしていた。双子のライオン堂のコンセプトの支店のような形、まるでお店を拡張していくような感覚で発行したらしい。文芸誌を「実験の場」とし、とにかく発表の場を増やすことで文芸作品自体を増やしていきたいとも語っていた。

 

「文芸誌を作ろうと思った理由は、作品の発表の場を一つでも増やしたかったから。あのとき夢中になった文芸誌――僕にとっての宴を自ら開きたかったからだ。」

(『草獅子 vol.1』編集後記より引用)

 

私が今回、『草獅子』を手に取ろうと思った理由は、まずカフカ特集に惹かれて、それから、執筆陣の豪華さと、好きな小説家が関わっていたためだ。特集に関して言えば、カフカ好きはチェックしておいたほうが良いと思う。少なくとも私は、今まで自分の中にあったカフカ像がほんの少し更新されたように思う。カフカの紹介者として有名になってしまった小説家のマックス・ブロートについても触れられている。特集とは別に絲山秋子さんの掌篇小説「コノドント展」「寺院船」「主催者」も掲載されている。

なお、巻末の予告によると次号の特集は〈宮沢賢治〉になる予定らしい。

 

関連リンク↓↓

本屋発の文芸誌 #草獅子 発売後の反応まとめ @lionbookstore - Togetterまとめ

 

 

※2017年1月23日追記

本屋発の文芸誌ですが、こちら(↓下記リンク)でもお求めいただけます。

双子のライオン堂さんより「多くの方に手にとっていただければ幸いです」とコメントをいただいたので、リンクを貼ることにしました。いちおう、全国の書店さまにて取り寄せ可能ということも併せて追記しておきたいと思います。

 

草獅子 vol.1(2016)―文学のたのしみを身近に 特集:カフカ

草獅子 vol.1(2016)―文学のたのしみを身近に 特集:カフカ