日本文学
小説を読んでいる間の、時間はいったい誰のものなのだろうか、とふと思う。 読む作品によって、本を読んでいる時間の在りようというのは、どうしてこうも違うのだろう。やっぱり小説を読んでいる間の時間は、純粋に自分の時間ではないかもしれない。素朴な考…
今回は津島佑子『半減期を祝って』という本について感想を書いていきたい。この本には表題作のほか「ニューヨーク、ニューヨーク」「オートバイ、あるいは夢の手触り」という短篇小説が収録されている(初出はいずれも『群像』)。 半減期を祝って 作者: 津…
第122回文學界新人賞受賞作であり、同時に第157回(平成29年上半期)芥川賞受賞作の「影裏」について、ようやく何か書けそうな気がする。非常に技術力の高い描写で話題のこの作品、実は一読目には良さがよくわからなかった。「うまい」のはわかる。だけれど…
こんなちっぽけなブログを、ひとりでちまちまと書いている自分を、いつか別の自分が思い出すかもしれない。そのいつかの自分のために、こうして「意識の宛先」みたいなものを残しておいてやろうと思うのも、この小説のたのしみかたのひとつかもしれない。い…
「月刊」ということにこだわらなければ、面白そうな文芸誌っていっぱいある。 今回ご紹介するのは『MONKEY』という文芸誌。 柴田元幸責任編集 MONKEY 「翻訳家の柴田元幸が責任編集を務めるMONKEYは、今私たちが住む世界の魅力を伝えるための文芸誌です。い…
今回ご紹介する作品はこちら。 温又柔「真ん中の子どもたち」(『すばる』2017年4月号掲載) すばる2017年4月号 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2017/03/06 メディア: 雑誌 この商品を含むブログ (1件) を見る ※単行本が発売予定ですが、今回当ブログの記…
今回は、第48回新潮新人賞を受賞してデビューした古川真人の新人賞受賞第一作「四時過ぎの船」について書いていきたいと思う。 デビュー作である『縫わんばならん』は芥川賞候補になり、単行本も出版されている。『縫わんばならん』について、小説家の小山田…
気になっていた小説家の作品を、4月5月と縁がありようやく読む事ができた。 その小説家というのは笙野頼子という人で、名前くらいはうっすら聞いたことがあったが、実際にはなかなか読む事ができないでいた。で、どうして今年になって急に読み始めたかという…
砂漠には行ったことがないけれど、よく海辺に行ってはどこから打ち上げられてきたのかさっぱりわからない倒木や、海藻やゴミの絡まり合ってできた山、それに人間が作った波除ブロックなんかに登って砂浜を眺めることがある。海辺の砂は、風に飛ばされていく…
この本には「こちらあみ子」「ピクニック」の二編の小説が収められているが、今回ブログの記事では「こちらあみ子」を取り上げたいと思う。 ふだんはあまりこういうことは気にしないのだけれど、たくさんの人がこの小説に関心をもって読んでいるらしいので、…
今回は『群像』2017年3月号に掲載されていた、滝口悠生「高架線」という小説の感想を書いていきたいと思う。地上より高いところを電車が走る「高架線」。そこから風景を眺める瞬間を彷彿とさせるような、きゅうに目の前にパーッと小説全体が開けて見える瞬間…
さて、どういうわけなのか、2月は磯﨑憲一郎強化月間(?)になっており、ブログの更新もこの著者の作品についてばかりになってしまっているのだが、今回も懲りずに書いてみようと思う笑。今回は、磯﨑憲一郎のデビュー作(文藝賞受賞作)である「肝心の子供…
この小説は私にとって、どういうわけだかひどく思い出深いものなのだ。本当に大好きな本であるにも関わらず長い間所有することはなく、そうであるにも関わらず何故か何度も読み返しており、どこで読み返したのかと考えていると実にいろいろな町の図書館の閲…
今回ご紹介する本はこちら。 磯﨑憲一郎『往古来今』(文春文庫、2015年) 往古来今 (文春文庫 い 94-1) 作者: 磯?憲一郎 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2015/10/09 メディア: 文庫 この商品を含むブログを見る この本をはじめて目にした時、なにかが違…
「差別ってよくない」「差別をやめよう」 なんていう言葉はもう何十年も(いや、もしかしたら自分の人生を超えているから実感が沸かないだけで実はもう何百年も)言われているのかもしれない。 しかし、何が差別で何が差別ではないのか? あまり考えられるこ…
最近、「ちいさな文芸誌」に注目している。 ここで「ちいさな」という言葉を使ったのは、単にいわゆる「五大文芸誌」と区別するためで否定的な意味はない。大手出版社が刊行しているのとは別の文芸誌、という程度の意味である。誌面はとても充実していて、作…
人は二度死ぬ。一度目は生物として死んだ時、二度目は人に忘れ去られた時だ、なとどいうのは一体どこで聞いた言葉だったかあやふやだが、馴染のある感覚である。 杉本裕孝「弔い」という作品では、人は二度生きる。一度目は死ぬ前の生、つまりふつうに生きて…
今回は稲垣足穂(1900-1977)を紹介しようと思う。 稲垣足穂『現代詩文庫1037 稲垣足穂』(思潮社、1989年) 稲垣足穂『ちくま日本文学全集 稲垣足穂』(筑摩書房、1991年) 稲垣足穂 [ちくま日本文学016] 作者: 稲垣足穂 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日:…
(まあ、女がこんなお転婆をいたしまして、川へ落こちたらどうしましょう、川下へ流れ出でましたら、村里の者が何といって見ましょうね。) (白桃の花だと思います。)とふと心付いて何の気もなしにいうと、顔が合うた。 すると、さも嬉しそうに莞爾(にっ…
化ける、というのはどういうことなのだろうとふと考えた。辞書的な意味を引いておくと「本来の姿・形を変えて別のものになる」ということ。私達は「化ける」ことよりも、たぶん「化かされる」ことのほうが身近に感じられるのではないだろうか? 自分が化けて…