外国文学
もしも、絶対に割り切れないものが「まっぷたつ」に割れてしまったら……? それによって起こる様々な葛藤、滑稽な出来事の数々を上質な語りで聞かせてくれる物語、それがカルヴィーノの『まっぷたつの子爵』だ。 カルヴィーノ作、河島英昭 訳『まっぷたつの子…
日本は島国である。 と、敢えて当たり前のことを書いて再確認したくなるほどに、私には島暮らしの実感がない。自分の属する国が他国から見れば「島」であるにも関わらず、なんとなくもっと「地盤」のしっかりした場所にどかっと暮らしているような気持ちでい…
どうしてそんなことがあり得たのかよくわからないのだが、とにかくそういう具合なのだ。つまりわたしはインディオなのである。メキシコやパナマでインディオたちに出会うまで、わたしがインディオであるとは知らなかった。今では、わたしはそれを知っている…
「月刊」ということにこだわらなければ、面白そうな文芸誌っていっぱいある。 今回ご紹介するのは『MONKEY』という文芸誌。 柴田元幸責任編集 MONKEY 「翻訳家の柴田元幸が責任編集を務めるMONKEYは、今私たちが住む世界の魅力を伝えるための文芸誌です。い…
今回はル・クレジオの短編小説集『ロンド その他の三面記事』を紹介したいと思う。 ロンドその他の三面記事 作者: J.M.G.ル・クレジオ,佐藤領時,豊崎光一 出版社/メーカー: 白水社 発売日: 1991/11 メディア: 単行本 クリック: 1回 この商品を含むブログ (2…
図書館で借りた古い文学全集にたまたまとりあげられていたために、巡りあう種類の小説がある。もしかしたら「あなた」にとって今回紹介するこの小説がそういうものになるかもしれないし、ならないかもしれない。「わたし」にとって、そうならなかったのは図…
今回紹介するのは、ル・クレジオ『メキシコの夢』という本。この本は著者のインディオ諸文化研究の成果を〈夢〉というキーワードのもとにまとめあげたもので、原著は1988年8月に刊行された。ル・クレジオには1967年に義務兵役代替としてメキシコ市のラテン・…
今回紹介する本はル・クレジオ 著、菅野昭正 訳『アフリカのひと――父の肖像』(集英社、2006年) アフリカのひと―父の肖像 作者: J.M.G.ル・クレジオ,Jean Marie Gustave Le Cl´ezio,菅野昭正 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2006/03 メディア: 単行本 ク…
前回ブログ記事で紹介した『オニチャ』と合わせて作者の幼少時の思い出から生まれた〈二部作〉とされる『さまよえる星』という本について、今回は書いていこうと思う。フランスで刊行されたのは1992年4月だが、作者が≪ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール≫誌(…
夏がくれば、というか夏至が近づけば……ということなのだろうか? どういうわけか毎年この時期になるとル・クレジオという作家の光にあふれた小説作品が読みたくなる。それで今年もル・クレジオの著作を手に取った。今回の記事で紹介するのはこの本。 ル・ク…
今回紹介するエイモス・チュツオーラ『薬草まじない』は自分にとって二冊目のアフリカ文学の本になった。 エイモス・チュツオーラ 作、土屋哲 訳『薬草まじない』(岩波文庫、2015年) 薬草まじない (岩波文庫) 作者: エイモス・チュツオーラ,土屋哲 出版社/…
いきなり私事で恐縮であるが、このブログは非営利である。アフィリエイトをやっているわけでも、広告収入で小遣い稼ぎをしようとしているわけでもない。どんなに頑張って記事を書いても、どんなにアクセス数がアップしてもギャラは永遠の0である(というか、…
今回紹介する本はこちら。 ナサニエル・ウエスト 著、柴田元幸 訳『いなごの日 / クール・ミリオン―ナサニエル・ウエスト傑作選―』(新潮社、2017年) いなごの日/クール・ミリオン: ナサニエル・ウエスト傑作選 (新潮文庫) 作者: ナサニエルウエスト,Nathan…
いつか自分も、自分の中にあるもので充足して同時に自分の作り上げた作品にも満足できる日というのが来るのだろうか、たとえば……晩年、とかに。でも、それがいつなのかということは主体が生きている間、明確に意識されることはきっとなくて、と、いうことは…
ある日、ニコニコして家に帰ってきた彼女が鞄からおもむろに取り出したものがそれだった。一体どこで採って来たのやら、妙な構造をしたキノコらしきものが描かれた本だ。彼女はそれをテーブルに置くと「そこらへんの本屋に普通に生えていたの」と言った。そ…
二段組みで1000頁もある大長編小説『テラ・ノストラ』。この作品にはものすごく膨大な時間が流れている。時系列(直線的な時間理解)で整理して読めば、アステカ文明やイエス・キリストが活動していた頃のローマ帝国、15~16世紀のスペインの「新大陸」発見…
前回に引き続き、今回もカルロス・フエンテス『テラ・ノストラ』を読んだ感想を書いていきたいと思う。 カルロス・フエンテス 著、本田誠二 訳『テラ・ノストラ』(水声社、2016年) 前回記事↓↓ mihiromer.hatenablog.com ■二重の円構造 この作品の構造が「…
この小説は「悪夢」に似ている。それをみている間、確かに私を支配していた秩序が、目覚めとともに支離滅裂になって霧散する。嘘くさいとか、あり得ないとか、そういう言葉で割り切ることができない確かに存在した「悪夢」であったはずなのに、そこにあった…
日本ではムーミン物語の作者としてすっかり有名なトーベ・ヤンソンにとって、「島暮らし」というのは幼い頃からの習慣であり、人生にとって欠かすことのできない期間であったらしい。訳者の解説によると、母親の腕に抱かれた赤ん坊の頃に滞在したブリデー島…
2017年もまだ始まったばかりだというのに、さっそく素晴らしい長篇小説に出会うことができた。今回はカルロス・フエンテス『アルテミオ・クルスの死』(新潮社、1985年)という本を紹介したい。 ちなみに以前カルロス・フエンテス『澄みわたる大地』について…
昨年末から年始にかけて、しばらくスーザン・ソンタグの著作を読んできたわけだが、今回の更新で一旦終わりにしたいと思う。今回は『隠喩としての病い』を読んで考えたことをまとめておきたい。 スーザン・ソンタグ 著、富山太佳夫 訳『隠喩としての病い』(…
今回はスーザン・ソンタグの『ハノイで考えたこと』という本を取り上げたい。 スーザン・ソンタグ 著、邦高忠二 訳『ハノイで考えたこと』(晶文社、1969年) ハノイで考えたこと (晶文選書) 作者: スーザン・ソンタグ,邦高忠二 出版社/メーカー: 晶文社 発…
今回はスーザン・ソンタグの『写真論』を読んで考えたことを書いてみようと思う。この本を読むまで、そもそも写真とは何か? どういう性質のものであるか? などと考えたことはなかった。考える暇もなく、現代の我々はスマホで気軽に写真を撮るのである。こ…
久しぶりにフリオ・コルタサルの短篇集を読んだ。やっぱり好きである。今回読んだのは、『海に投げこまれた瓶』という短篇集で、収録されている作品は以下の八作品である。 ・「海に投げこまれた瓶」 ・「局面の終わり」 ・「二度目の遠征」 ・「サタルサ」 …
今更、私のブログで話題にする必要があるのだろうか? そう思ってブログの更新をためらってしまうほどに有名な本、『チェルノブイリの祈り』。作者スベトラーナ・アレクシエーヴィッチは昨年(2015年)ノーベル文学賞を受賞したベラルーシのノンフィクション…
この社会に生きていると、嫌な思いをすることが多々ある。困難が降りかかってくることもしょっちゅうだ。そういう諸々の面倒事を、こんなふうにさらっとかわして生きていけたら、どんなに幸せなことだろう、と思ってしまう。 彼らと争ってみても全然歯が立た…
今回の更新で『ドン・キホーテ』後篇に関する一連の更新は終りになります。前篇も合わせれば随分とこの機知に富んだ郷士に振り回されていたような(汗) ドン・キホーテ〈後篇1〉 (岩波文庫) 作者: セルバンテス,Miguel De Cervantes,牛島信明 出版社/メーカ…
『ドン・キホーテ』後篇についての記事がこれで3本目になる。今回は基本的なことだけれど、『ドン・キホーテ』という作品全体に含まれるごく素朴な芝居観について書いてみたい。引用頁などは岩波文庫版の『ドン・キホーテ』後篇に拠る。 セルバンテス作、牛…
今回の更新は前回に引き続き、『ドン・キホーテ』後篇の感想を書いていく。前回の更新で今後書いていくことについて箇条書きにしておいたが、今回はひとつめ、「本」というものをめぐる諸々の話について書いていきたい。我々にとって「本」というものはごく…
近代小説のはじまりと言われているセルバンテスの『ドン・キホーテ』を今年に入ってから読んでいたのだが、つい先日後篇を読み終えた。長いような気がしていた物語も、読み始めればあっという間に終わってしまった。今回からしばらくの間『ドン・キホーテ』…